2F:過去の展覧会

安田みつえ銅版画展
2010.10/10(Sun)~10/31(Sun)

面白く、ふしぎな“かたち”

井上 嘉明(鳥取市・詩人、文芸誌「流氷群」同人)

 

安田みつえさんの銅板画展が鳥取市で開かれている。彼女は、水墨画家として名をなした田中瑞人氏の三女として智頭町に生まれた。現在、前衛的な手法で活躍している画家、船井武彦さんは義兄にあたる。今回は、いわば初めての“里帰り個展”として、新しくもユニークな世界をみせてくれるだろう。
鳥取大学で絵画を学んだあと上京、現在は出版イラストを中心に、フリーな立場で制作している。書籍、文庫本、歌曲集、教科書などの表紙を飾る、美しく、感性匂う作品の数々。アクリル、パステル、エッチング(銅版画)、コラージュなど多彩な表現方法をもっているが、なかでも安田さん自身、アーティストとして重視しているのは銅版画ということになるだろう。それは美術的に、もっとも達成感の高い分野といえる。

 銅版画は、磨かれた銅板に鋭い針で描画し、それを腐蝕液に浸して、線のニュアンスを強化する、といえば簡単なようだが、作業はもっと複雑で、多くの工程を繰り返すので、高度な技術を必要とするのはいうまでもない。

 まず作品をみると、さまざまな“かたち”の面白さに目をうばわれた。たとえば「Why」は、砂の上に漂着物のようなものが、いくつも並んでいる。「新しいことば」も貝、魚、昆虫、草花などをときに標本のように置いている。身近にあるものを凝視することで得られる“かたち”のふしぎさの発見は、彼女の大切なモチーフなのだろう。そして、それらは長年イラストで鍛えられた線の美しさに昇華する。

 「ゆらゆら」の水の中の青いイメージ、「beat」、「みつけた樹」の落ち着いた色づかい。どこかメルヘンチックな味。

 銅版画の特質からいって、絵画のような大形のものは限界があるが、A3サイズくらいの大きいものが四点、「heel」のように大胆な構成は、安田さんの意欲と可能性を感じさせるに十分だ。

 私達は銅版画といえばブリューゲル、レンブラント、ゴヤなどの巨匠の連想から、モノトーンの世界を思い浮かべるのだが、彼女は色彩の面でも新しい地平を拓くような予感がある。

 モノトーンの作品では「遊びの法則」、「友と」、またセピア色にくすむ「室内」などがある。人物が何やら寓話的に対話しているのは、“物語”の好きな作者の一端を表しているのだろうか。

 初めに述べた出版イラストのいくつかをみて思うのだが、安田みつえさんは色彩面でも豊かなもの(ときに明るく、さわやかな)をもっている。若者に合いそうな、しゃれた現代性もあり、それらの資質は銅版画にも生かされている。一方では銅版画特有の、何か思弁的な、禁欲的なものもあり、これから安田さんの世界はさらに深度を加えていくのだろうと思った。

 

2004.10.17日本海新聞掲載